立ち退き料の内訳に迷惑料も含まれる 内訳・相場・交渉のポイント
不動産所有者・家主の事情により、借主は立ち退き料を支払われる場合があります。本稿では、立ち退き料のガイドラインと市場価格、一般的な内訳、家主との穏便なやり取りの仕方などについて詳しく説明します。
目次
立ち退き料とは大家が立ち退きを依頼する際支払う料金
立ち退き料は、家主が所有する不動産に住む借家人を退去させるために支払う料金です。ポイントは、家主の都合で、契約途中の立ち退きを余儀なくされるため、借主の負担を軽減するために立ち退き料を支払う必要があるということです。前提として、賃借人は賃貸借契約によって守られています。賃貸借契約は借地借家法という法律に基づいて作られており、正当事由がない限り賃借人は立ち退き請求に応じる必要もありませんし、大家は更新を拒絶することもできません。
立ち退き料の内訳 ~一般的に迷惑料も含まれる~
「立ち退き料」の内訳を説明します。
敷金、礼金、仲介手数料、1カ月分の家賃などの新築住宅の初期費用、火災保険、地震保険、インターネットや電話回線の移転費用、引越し費用、慰謝料、迷惑料
立ち退き料はケースバイケースであり、裁判所の判断は、賃貸人が賃借人にもたらす経済的損失によって決定される傾向にあります。したがって、参考程度に内訳を認識してください。
1.新居への入居にかかるお金(敷金・礼金等)
1つ目は、敷金、礼金、仲介手数料など、新居への入居に関連する初期費用です。借主は基本的に引越しを望まない立場を前提とするため、引越しの費用は「借主が支払う必要のないお金」です。したがって、これらの費用は立ち退き料にも含まれています。また、「新居1カ月分の家賃」は、後述する慰謝料・迷惑料に近いものの、引越しの際の初期費用として立ち退き料に含まれることが多いです。
2.新居に保険・通信等を移転するためにかかるお金
次は、火災保険、地震保険、インターネット/電話回線などの移転費用です。ほとんどの賃貸物件で火災保険が必要です。また、まれですが、新居で地震保険への加入が必要なケースがあります。その場合の費用も立ち退き料に含まれます。さらに、インターネットおよび電話回線には、移転および新しい回線に関連する費用が発生します。現在加入しているインターネット回線が移転できず、キャンセル料を支払う必要がある場合、その費用は立ち退き料に含まれます。
3.立ち退きの迷惑料(慰謝料)
立ち退きは、目に見えない労働とストレスを引き起こします。新しい家を見つけるための努力、 現在の環境を変えるストレス、新しい環境に適応する必要があるストレスなどが挙げられるでしょう。たとえば、児童のいる家族が引っ越しを余儀なくされた場合、学区を検討し、新しい家を見つける必要があります。ただし、近くに希望する物件がない場合は、転校が必要になったり、保護者の勤務時間が長くなったりするデメリットが発生するかもしれません。このように心理的ストレスや立ち退きに伴う労働などの目に見えない部分も、迷惑料や慰謝料に換算されます。
立ち退き料の相場は迷惑料も含めて家賃6カ月分が目安
立ち退きとは、家主の都合で賃貸借契約(土地賃貸法)と呼ばれる強力な法律で保護されている借主を強制的に退去させる行為です。したがって、家主は借主が退去するために合理的な費用を支払わなければなりません。もちろん、家主が「立ち退きしてください」と言って、借家人が素直に「OK」と言った場合、立ち退き料は不要になる場合があります。ただし、借主の立場からすると、物件を探す手間がかかるため、ほとんどの場合、立ち退きを簡単に承諾することはありません。そのため、家主は借主に立ち退き料を支払いますが、立ち退き料はケースバイケースです。ただし、借主が望む場合は基本的に立ち退き料を支払ってもらうこととなり、一般的な立ち退き料の相場は家賃の約6カ月分となっています。
なぜ立ち退き料は支払われるのか
借地借家法により大家に「正当な理由」がない限り、賃貸借の契約を解除できないことになっているので、立ち退きをお願いされるために各種費用を持ち、立ち退き料が支払われるのです。しかし、明確な支払額が設定されている訳ではないため、さまざまな事情が絡み合うことも多く、トラブルが起こりやすいのです。
立ち退き料が支払われない・正当な事由に該当するケース
まず、立ち退き料が支払われず物件から出て行くだけの4つのケースから説明します。
1.所有者との契約違反があった
居住者が契約に違反した場合、物件の所有者は立ち退き料を支払うことなく退去してもらう権利があります。以下の契約違反のいずれかが見られた場合は、立ち退き料を支払う必要はありません。
ペット不可の物件で動物を飼育している
賃貸の目的とは使用方法が異なる
ごみ収集などの規則を守らない
騒音で近隣住民に迷惑をかけている
これらはすべて、財産の所有者が権利を行使できる場合です。上記の例で、賃貸の目的とは異なる使い方の典型的な例は、居住用として借り貸りたが、実際には営業所として使用していたケースです。規則に違反していた場合、所有者側に証拠を収集され、法律に精通している弁護士に介入されれば、借主側に勝ち目はほとんどありません。
2.賃貸契約の満了
所定の契約期間で賃貸借契約が締結され、自動更新されない契約を結ばれる方法があります。次の3つは、そのような契約方法の例です。
有期賃貸借契約:所定の期間が満了すると契約は満了
解体を前提とした期間限定契約:解体を条件とした契約
短期契約:一時借入を条件とした契約
上記の契約は、契約前に賃貸期間を提示し、条件を満たすことにより契約が締結されます。したがって契約が満了した場合、立ち退き料が支払われることなく退去させられてしまいます。
3.家主が自分で物件を利用する
家主が必要と認められる範囲で物件を使用するために退去を求めた場合、立ち退き料を支払う必要はないと判断される場合があります。
家主の自宅に必要
家主の家族が住んでいる場合
家主が経営するお店として利用する
これらは家主都合によるものですが、その必要性は物件所有者の権利の範囲を超えていません。そのため、立ち退き料なしで退去させられる場合があります。ただし、その場合でも協議の結果、立ち退き料を支払ってもらえる場合があります。この場合は諦めず、物件所有者との話し合う場をもうけたり、そのような場に参加することが大切だと言えます。
4.競売や公売で得られた物件からの立ち退き
なんらかの理由で所有者が変更された場合、新しい所有者によって立ち退きを要求されるケースが存在し、その場合は立ち退き料が支払われない可能性が高くなります。特に競売や公売が行われている物件では、入居者が立ち退き料をもらえずに退去を余儀なくされることが多いと言われています。所有者が金融機関から貸し出されているお金を回収する権利を行使するためです。競売と公売は裁判所主導のため強制力があります。居住者が退去を拒否したとしても請求は成立しません。この場合は立ち退き料も発生しません。
所有者から立ち退きを依頼される手順
物件所有者から実際に立ち退きを依頼される際、どのような手順がありえるのか3段階で説明します。
ステップ1.通知・連絡
居住者に立ち退きを通知・連絡されます。所有者が居住者に立ち退きを求める場合、土地賃貸法では、契約終了の少なくとも6カ月前に契約が更新されないことを通知する必要があると規定されています。
ステップ2. 立ち退き料の交渉
所有者から立ち退き料について入居者へ、交渉をもちかけられるでしょう。所有者としては早く立ち退いてほしいという動機があるため、そこを利用し優位な立場に立つことができるかもしれません。
ステップ3.立ち退きの開始
交渉において双方の合意が形成されれば、実際に立ち退きに移ります。このとき、所有者側から「期日までに立ち退きする場合は、立ち退き料を支払う」などの条件を設定される可能性があります。ここでトラブルに発展する可能性が高いと言われています。所有者が期日に関して設定する理由として、建物の再建や大規模な修繕を計画している、などが挙げられます。もしトラブルに発展した場合は、入居者側にも大きな被害が生まれ得るため、合意が形成された後は迅速に立ち退きを済ませるようにしましょう。
トラブルが起きがちな立ち退きはプロに相談するのがおすすめ
立ち退き料は、入居者にとって立ち退きにおけるコストを賄う重要な要素です。交渉の仕方によっては、十分な額を請求した上で特にトラブルもなく、穏便に立ち退きを済ませることができます。ただし、理論的には正しいとしても自分の利益だけを考えれば、トラブルに発展することは避けられません。今回の記事で紹介したポイントを参考に、入居者と物件所有者の双方にトラブルのない、穏便な立ち退きを目指しましょう。万が一トラブルが想定される場合は、不動産企業のプロに相談するのがおすすめです。